夏すぎたぐらいに、妻がパソコンで旅行の写真の整理と
かネット証券でオンライントレードとかやってみたいたい
っていうので、仕事でも使う俺のとは別に通販でノートパ
ソコン1台買ったのよ。そんで、俺の使っていない外付け
ハードディスクもくれてやってさ。

 まぁ俺29で、妻27、付き合って5年、結婚して3年
半。そんで子供もまだいないし、俺の仕事(某省のノンキ
ャリ、ドサ回りばっか)の都合で、東京育ち(青梅だけど
ね)の彼女の友達もいない、人口10万ぽっちの地方都市
暮らしに付き合わせているわけなんで、このぐらいの暇潰
し的なことはいいかなと。パソコンに向かっている時間の
増えた妻の背中を見ても、文句言うでもなく放っておいた
わけ。

 で、パソコン買って1カ月。もう9月に入っていたと思
う。定例会で使うとかいう、地元県会議員用の資料づくり
やってて、夜11時すぎに帰宅したら、妻が口とんがらせ
て、半べそかいてるわけ。聞けば、ネット証券から提供さ
れている売買注文を出すソフトに不具合起きて注文ができ
なくなったってんだよね。
 俺は「いっかい削除してインストールし直せば?」って
いったんだけど、「いろいろやったけどわかんない」って
始まったんよ。うちの妻って普段は取り澄ましてて、どっ
ちかってとSっぽいヤツなんだけど、こういうトラブった
時ってのは、おろおろと子供っぽくてちょっと可愛いもん
で、俺は一日中パソコンと格闘していたから、もう目がチ
カチカしてたんだけど仕方なく、風呂から上がった後、缶
チューハイ片手に作業を始めたのよ。

 とはいっても、俺もそんなにパソコンに詳しくはないも
んで、再インストールするしか分からなくて、ソフトの在
処を探したら、なんのことはない、妻のやつ、そのソフト
を俺のあげたハードディスクに入れちゃってたのよ。しか
もUSBが外れてたもんだから、パソコンの方としても困
ったってわけで、まぁ本体にインストールしなおせば良か
ろうと、俺はUSBぶっさしてみたんだけど、そしたら、
ガリガリって言いながら、懐中電灯みたいなマークでてき
て、ディスクの中を読み込むじゃない? そん時に妙な文
字列が見えたのね。

 それが「ザーメン」とか「女教師」「中出し」とかさ。
俺、一瞬、自分が保存していたヤツだと思って、ヤバって
思ったんだけど、妻にはちゃんとフォーマットしてから渡
したはずだし、俺のヤツはだいたいエロサイトからダウン
ロードしてきたときのファイル名そのままだから、英数字
なのね。では、こいつはなんだろうと。妻は、楽しみにし
てるダウンタウンの番組見終わったら「おねがいしますね
~」って言って先に寝ちゃってから、ちょっと罪悪感にド
キドキしながらも、探索を始めたわけ。

 まずハードディスクの中身をチェック。でもとりあえず
は二人で言った韓国とかニューヨークとかの旅行写真のフ
ォルダが日付ごとに綺麗に並んでいるだけ。疑問を感じた
俺はハードディスクの容量を確かめてみたんだけど、使用
領域は120G中98G! 写真なんて1Gにも満たない
のにこの容量はなによ…。そしたら表示に出てるじゃない
の「1個の隠しフォルダ」って。俺は笑いをこらえながら
すべてを表示させて、半透明のフォルダをクリ―ック!!

 そしたら、出てきた出てきた大量のエロ動画と画像が。
そんなに頻繁にはセックスもしたがらないのに…このエロ
女め!!と俺は大興奮で、はやる気持ちを抑えてひとつひ
とつ順番に見始めたのよ。するとさ、どうも変なのな。で
てくる女優、AとかSとかって名前や髪型は何回か変わっ
ているみたいなんだけど、よっくみると、みんな同じフェ
ロモン女なの。ちょっときつめだけどすっきりと華のある
顔立ちで、おっぱいは大きめ、全体的にはすらっとして色
が白くて………。

 あっ!

 気付いた瞬間、思わず自分の口を手で抑えたよ。

 間違いない!! うちの奥様でいらっしゃる!!

 もう俺、大混乱。そんな過去、まったく知らなかったも
んね。妻は、俺が胃潰瘍で入院した先の売店でバイトして
いたのよ。一見するとロシア系のハーフかクォーターかっ
て感じで、人目をぐぐっと引き寄せる綺麗な子だなぁと思
って。なんとかお近づきになりたいと仕事絡みの知人に頼
み込んで紹介してもらって……。それが、AV出演歴あり
ですか? 妻が元AV女優って、国家公務員(ノンキャリ
だけどな)の俺にとっちゃ、いや一般の方でもそうだろう
けど、マジでインパクトでかいよ。知ってて結婚なら別に
いいけど(いいのか?)、知らずにって。知らずにって。
知らずにって。

 しかもこれ、結構えぐいことやってるじゃん。唾液交換
とか顔射とか、露出、レイプ、痴女、SMとその美体を駆
使してよくもまぁ、ハードディスクにあるだけで本数は1
3本、述べ50人以上とやっちゃってるじゃん。挙げ句は
引退記念アナルファックなんて、俺には触らせてもくれな
い場所使って。。。しかもアナルに出されたザーメン掻き
出して飲ませられたりして、とんでもない変態プレイまで
をやってらっしゃる……。俺はよくわかんないまま息も荒
くなるし、ち○こも猛スピードで膨らんだり萎んだり大忙
しよ。

 いやいや待て待てと、ちょっと冷静になった俺は「他人
の空似で、それに気付いた妻が密かに収集していただけと
いうこともある」と思ったんで、妻の体の特徴を想い出し
てみたわけ。まずはありがちだけどホクロ。あまり具体的
には書けないけど足と胸にあるのね。俺は動画を再生しな
がら、なんどもプレイヤーのバーを右に左にさせながら確
認したら……あるのよ。やっぱり(jpgとかgifとか静止画
像の方はあったりなかったり、まちまちだったんだけど、
目の光り具合とか星がいっぱいあって嘘っぽいし、修正し
てあるのは明白そうなんであてにならんと)

 即離婚かとも思って、呆然としてしばらく動けなかった
んだけど、とりあえず俺は自分の部屋から別のハードディ
クス持ってきてオールコピー。コピーしてる間、ネットで
その妻らしきAV女優の情報を集めてみたら、まぁ結構、
そこそこ名の知れた人だったみたいで、もはや画像が見ら
れなくはなっていたけど、「復活キボンヌ」なんてのもあ
って、コレ書いたヤツ、今頃も俺の妻がやってるAV観て
ハァハァしごいてのかもしれないと思うと、怒るやら哀し
いやら、もう欝も欝。

 コピーし終わったら4時近くになってて、妻を叩き起こ
そうとも思ったけど、興奮して何しでかすか分からない気
持ちと隠されていてショックだという落胆とが複雑に入り
交じってしまって、結局「お前、俺に秘密ないか?」的な
やんわりとした手紙オンリー。そのままとりあえず、家を
出てファミレスへ。なんで黙っていたのだろうかとか、こ
れからどうしようかとあれこれ思い悩んでたら、午前7時
すぎに妻から携帯に電話あってさ。「どこにいるの?」と
尋ねる声はすっかり事態を把握しているらしく涙声で、向
こうもだいぶ取り乱している様子。このままファミレスで
大げんかになっても恥の拡大なんで、とりあえず帰ること
にしたわけ。

 で、マンションの玄関を開けたら、妻は目を真っ赤に腫
らしてパジャマ姿のまま、しょんぼりと「こっちに来て」
って。どんな態度取って良いのか、こっちもよく分からな
かったんで、そのままついていくとクローゼットの奥の棚
の上にある、ブーツをしまってある長めの靴箱を引っ張り
出して、箱からDVDとVHSの束を取りだして、俺の前
に差し出したのよ。どぎついパッケージに描かれているの
はかつての姿ってやつで。「なんだよコレは」と俺は素知
らぬふりをして迫ると、妻はいよいよ観念したらしく「全
部あたし」とぽつり。もう、そっからは話は成立はせず、
俺が一方的に説明を求め、妻がひたすら釈明するって構図
が続いてね。まぁ一種の修羅場ってやつだったよ。

 俺はその日、仕事は休むことにして、妻と今後を話しあ
ったんだけど、俺の心はもう「離婚」に傾いていて、言葉
にこそ出さなかったけれど、妻も諦めたように俺の言葉に
はただ頷いて。夕方には「明日、離婚届を取ってくるぞ」
と心に決めてたんだけど、俺はどうしても妻に「なんでA
Vにでたのか。そして、それをどうして俺に隠していたの
か」と聞きたくて、タイミング見計らっていたら、妻の方
から少しずつ話し始めてくれたのね。

 妻が言うには、きっかけは都内で女子高生やってたころ
に新宿でスカウトされたんだそうで、最初は写真だけで、
顔を出さない約束だったんだけど、事務所の方からは「既
に何百、何千もの女の人がAVでているし、何も特別なこ
とではないんだ」とさんざんに吹き込まれ、目の前に札束
が積まれて、制服を脱ぎながら少しずつ少しずつ感覚が麻
痺していったんだと。で、スカウトから2カ月、高校卒業
してS女子大(エスカレーターな)に入った年の5月にA
Vデビュー。ただ、AVに出演してから、周囲の目が怖く
なり、もの凄く後悔の念に襲われたのもあって、2年にも
満たないうちに引退と。引退後はいつ親や友人、学校や知
人、近所の人なんかにバレるかと、ひどく敏感になってし
まい、いつも怯えながら暮らしていたんだとさ。

 俺に隠していたのは、引退直後に付き合った男に、正直
に話したら「お前は豚以下に汚れた女」と言われ、男の友
人も加わって、入院を要するほど徹底的に暴行されたため
トラウマになってしまったっていうんだわ。俺は一度も妻
には手を挙げたことはないけど、その男も優しかったのが
豹変したそうで…。いつかは俺には話そうと心に決めて、
出演作の全部をこっそり持っていたんだけど、やっぱり言
えなかったってんだよね。「話してしまいたい」と「隠し
ておきたい」の間で揺れ動いて、なぜか出演作の現物は折
を見て捨ててしまうことにして、サイトから丸ごとダウン
ロード購入したヤツを告白用にとって置こうとしたんだと
さ。俺は「信用してきちんと話して欲しかった」っていっ
たけど、妻は「失うのが怖かった」と。

 離婚ってことで腹は決まったはずなんだけど、当然、俺
の中では「自業自得じゃねぇか、都合のいいこといってん
じゃねぇよ」ってのと「どんな過去でも今は俺の妻。俺が
守ってやらんとこの子はどうなる?」ってのが激しく戦っ
てねー。パッケージの中で縛り上げられて、こっちに向か
ってバイブ突っ込まれた尻を突きだしているのも確かに妻
なんだけど、デートで待ち合わせしていた時のこととか、
プロポーズした夜のこと、結婚式のこと、夫婦で行った旅
行のこととかも想い出しちゃって……。俺たち、夜になっ
てもリビングに部屋に電気もつけず、会話もなく、ただ時
間だけが過ぎていったのね。

 そのうち妻が「でも、見つかって良かった」って言い出
して。「このまま、あなたを騙して嘘ついて暮らし続けて
たら、あたしきっと罰が当たった。もう消せない過去なん
だから、これからはちゃんと背負って生きていく」と。そ
して無理な作り笑いなんか浮かべて、「今まで幸せをくれ
てありがとう。100点満点で1000億兆点の旦那様で
した」だと。で、慎ましく正座して、きっちりと両手を床
について「お世話になりました」と土下座なんかしたんだ
けど、そのまま顔上げられなくなっちまいやがってさ。

 俺の方も込み上げてくるものがあって、歯食いしばって
耐えてたんだけど、やっぱり負けてしまって「AVぐらい
なんだってののの」(マジで「ののの」ってなったね。声
震えてたもの)。やっとのことで「隠していたのは許せん
けど、お前はきちんと話した」と伝えて、ぐしゃぐしゃの
泣き顔の妻を抱き寄せて、「私、汚いから」と懸命に嫌が
る彼女にキスをしたのよ。最初は唇だけだったけど、俺は
「ぜんぜん汚くない。お前は綺麗だ」って、髪とかおでこ
とか、耳とか手とか足とかもう至るところにキスキスキス
キス…。そこからは妻のパジャマも無理矢理脱がしちゃっ
て、俺も裸になって、二人で無言のままで、互いに貪り合
うように抱き合ってね。

 深く互いを確かめ合った後は冷蔵庫にあった野菜とかで
軽い食事を取って、二人で風呂に入ってベッドへ。「これ
からは隠し事すんなよ」なんていいながら、くすぐり合っ
たり、軽く噛み合ったりしてふざけているうちに、するっ
と入っちゃってさ。結婚してからずっと妻の要望でゴム付
きだったんで俺は「あっ」って少し慌てたんだけど、この
ときの妻はすごく綺麗に微笑みながら「そのままで」って
ね。激しさは全然なかったけど、ものすごく長い時間、繋
がっていたわけ。最後にもう一度キスをして俺は「お前は
これからも俺の妻だ」って宣言したら、「ありがとう」と
妻の目からすぅっと涙がこぼれてね。そのまま妻に腕枕さ
せて、さらに手を繋いで、結構晴れ晴れとした気分で眠っ
たのね。

 で、朝。さぁ俺たちの再出発の日だって、起きたら、妻
が、いないのよ。

 嫌な予感しまくりで、フルチンのまま家中探したんだけ
ど、やっぱりいないわけ。旅行カバンも見あたらなくて、
妻のクローゼットもがぽっと空間が開いてるし、携帯鳴ら
しても繋がらないし、で、ダイニングテーブルを見たら、
朝食が用意されていて、ナプキンの上に置き手紙があって
さ。「ごめんなさい。夕べは抱いてくれてありがとうござ
いました。とても嬉しかったです。でも、こんなにも汚れ
て、しかも、あなたのような優しくていい人を騙してきた
私にはあなたと暮らす資格がありません。わがままで勝手
なことばかりしてごめんなさい。今までありがとうござい
ました。あなたに愛されたことは生涯絶対に忘れません。
さようなら」と。

 手紙の中には妻名義の預金通帳と印鑑が輪ゴムでくくら
れていてさ。さらに、もう結構な年数の経っている離婚届
に妻の名前が記入されててね。あいつめ、いつかこんな日
が来るのを覚悟しながら俺と暮らしていたのか、そう思う
と、気付いてやれなかったことが悔しくて泣けてきて。

 俺は急いで服来て、車で探しに出かけたけど駅もバスの
ターミナルもどこにも見当たらなくて。駅員に旅行カバン
もった二十代後半ぐらいの女を知らないか尋ねたけど、さ
っぱり要領も得ないし、だいたい、まとまった金を置いて
ちまって、過去があって金がない女がたとえ綺麗でも、い
や綺麗だからこそ世の中でどういう目に遭わされるのかっ
て想像もしたくないにどんどん想像してきちゃうし…。一
日中探し回ってどこにもいなくて、彼女の実家にも電話し
てみたけど、逆に義母から「なにかあったの?」と尋ねら
れちゃって、まさか娘さんはAV女優でしたと話すわけに
もいかず、返答に困って「事情は後で説明します。とりあ
えず戻ってくるか連絡あったら私のところへ」って一方的
に電話切ったわけ。

 仕事は病気ってことにして、1週間休みを取って上京し
て、思いつくところを片っ端から妻を捜し続けたんだけど
空振りでね。妻の実家や友人からも当然、捜索願を出した
地元警察からも見つかったという連絡もなし。マンション
に戻っても部屋は真っ暗。ただ妻の残り香がいたるところ
に残っていて、これがまたえらい淋しいのよ。

 結局、俺は仕事しながら休日には妻を捜す生活がそれか
ら3カ月。残念ながら12月に入った今も彼女は見つかっ
てないのよ。離婚届はいまだ出さずにいるし、実家のご両
親にも満足な説明ができないでいるわけ。でもね、そうし
ているのは妻とはいつかまた会える気がするからなんだよ
ね。願っている、というより「絶対にそうだ」と確信して
るよ。元AV女優を妻に待つなんて、こいつはアホな男と
思う人、多いだろうけど、もう別に気にしてないのね。ま
ぁ、これから先のこと考えれば、俺、いちおう国家公務員
だから上にバレたら仕事は変えなくちゃいけないかも知れ
ないし、周囲の冷たい視線とか偏見にゃ耐えなくちゃなら
ないとか、いろいろ考えることはあるよ。でもさ、AVに
出てた女を好きになったわけじゃなくて、好きになった女
がAV女優という過去を持っていたということだし。まぁ
世の中1人ぐらいこういうバカもいていいじゃないかと。
 そう思いながらいつ妻が帰ってきてもいいように部屋片
づけたり、夜中にはこんな形で顛末をまとめてみたり。こ
うしてる間に、あ、ほら、玄関のチャイム鳴ったし――。